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食卓の選択 2

早めに別の食卓に移ろうと思っていました。ところが、どうやら一度座った席を変えるのは、その連中が気に入らないことを意味するのであり、マズイらしいのです。席は自由、というのは建前でした。揉め事は御免だ。ああ、一回り上とずっと一緒かぁ。
 
しかし、何回か話してみると結構楽しいのです。特に創立以来ここにいるという牢名主は、その名にふさわしく、ここのことは何でも知っていました。それに頭もいい。ユーモアのセンスもある。情報源としては最高の人のようです。サンボのママ(色が黒くて目がクリクリした大女)も同じ時期の入居者で二人は仲良しです。二人でまあ、話すわ話すわ。誰それさんががこう言った、入院した、糖尿になった、介護室に入った、バカになった! 牢名主の声は大きいので、すぐ近くのテーブルにいる「標的」には筒抜けです。さすがの私も抗議しました。「そんなこと言って! 聞こえたら悪いじゃない」返ってきた答えはこうでした。「いいんだよ。バカなんだからわかりゃしないよ」 
この調子で話すので、乗りやすい私はゲラゲラ笑い、一緒になって「ハエ取り紙」の悪口を面白おかしくしゃべってしまうのに、一週間とかかりませんでした。みんなは笑い転げ、隣近所からは「あの人達はうるさすぎる」と苦情が事務所に持ち込まれたそうです。でも、私たちは堂々とおしゃべりを続けました。一日ほんのわずかの貴重な憩いの時です。むっつりご飯を食べて、なんになりましょう。「あんたの話は、下手な落語家より面白いよ」と褒められ、通りすがりの誰かが私に「どう?少し馴染みました?」と聞いたのに対して、サンボママが「この人はね、入った時から馴染んでんだよ」と言った時には、どうやら、この食卓には認知されたようだと喜んだものでした。
 
隣の姑は今までの同僚と私が仲良くなって行く様をみているうちに、少し控え目になり、私が妙なことをしても「何をしても自由だから」などと尤もらしく言うようになりましたが、それでも、時には溜まったマグマの噴火が必要らしく、おかしな文句をつけます。
みんながまだ長袖の時期に、私が半袖のセーターを着て行ったときです。
「あなた、何でそんな恰好してるの」 「今日は気温29度になるって聞いたから」
「それは昼間のことでしょう。今は朝よ」
29度になるまで温度計を睨んでいて、それから半袖を着るのかい! 私もキレます。
「私は朝からこれでいいから着てんの!」
「ま、そう。自由だからね」
 
今まで朝食抜きで過ごし、家で笑ったことさえない私にとって、この朝食時の団らんは、どんな薬よりも私を元気にしました。夜の間に溜まった空気の悪さで青ざめた顔色は赤くなり、その日一日を生きるエネルギーを与えてくれました。ありがたいことです。
しかし、彼女たちが、私の求めている「お友達」ではないことも確かでした。本や、映画などの話がしたい。社会の文化と繋がった話がしたい。この食卓では、そういう話はありません。せいぜい消費税の値上げの話ぐらい。もっと広く探さなければ駄目なんだ。あと、人が集う所と言ったら………お風呂?

ジジババ食卓 
男は黙って 女はさえずりながら
朝食を食う




プロフィール

borobear

Author:borobear
父が婚約者の母に贈ったイギリス製の熊。昔はピカピカに可愛く輝いていたのに、今や薄汚れてボロ熊に。私も老人ホームで薄汚れ。同じボロなら居直って、なりふり構わず踊らにゃそんそんという具合に、仲良く生きています。

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