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「大変な人」と共に

まだここに入りたての頃のことです。
この建物は10階まであり、エレベーターは三台並んでいます。
一階でおばあさん(私もオバアサンであることを一時忘れて下さい)と一緒にエレベーターに乗りました。そういうときには、元気な人が降りるボタンを仕切ります。
「何階ですか?」   「一階」
「はあ? ここ一階ですけど」  「いいんです」
 ???
登りのボタンを押し、私は自室のある5階で降りました。
おばあさんを乗せたままエレベーターは上がっていきました。はて、何階で降りたやら。

お風呂からの行き帰りにも、エレベーターを使います。時間差で夕食に行く人と一緒になります。
私は洗面器やタオル等の道具を持って、乗っていました。
途中から乗ってきたおばあさん(別の人)が聞きます。
「入浴ですか」「ええ」
「何で?」 さあ、大変だわからない。何でと理由を聞かれても………。
「飛行機で?」 ハッとひらめきました。「そうです。そうです!」
一階で私はそそくさと降りました。「入浴」は「ニューヨーク」だったのです。どうするとそういう風にこんがらがるのかわからないけど、あちらは納得したようだからよかった。どうやら「大変な人」らしい。
「大変な人」。ここでは認知症の人をそう呼びます。勿論入居者の間だけでです。

そういうことにあまり度々出会うと、疑問がわきました。ここは完全自立が条件で入るはず。どうしてこんなに多いのだろう。
ちょっと考えれば、理由はすぐ察しが付く簡単なものでした。入居時70歳だった人が15年以上も経てば認知症になる人が出てきても不思議はありません。いずれは増える認知症、寝たきり老人。新しい入居希望者の中から介護施設の不備を指摘する声が上がると、「すぐ介護棟を建てる準備ができています」という説明があったとか。早く落ち着ける部屋に入れてあげてください、可哀そうです、と私は言いたい。介護棟ができる様子はありません。

また、老人ホームに入居した途端、認知症になったという話は実によく聞きます。老人は変化に弱いのです。順応性がないのです。その上、今までやっていた簡単な家事まで取り上げられてしまう。「ご自分で腕を奮って食事の支度ができるよう、キッチンもあります」と説明書きに書いてあっても、見ればたった一口の電気コンロに小さな流し。料理を作らせずに食堂で食べさせるのが狙いだとすぐわかります。こんな所で腕を振るったら、あちこちにぶっつけて骨折するわい! 

可哀そうなのは、それらの老人だけではありません。彼らと一緒に生活し、その様子を四六時中目にしていなければならない自立者も、実は「大変」なのです。自分の将来の姿が目の前に突きつけられている。ここで、私は「未来」という文字と「希望」という文字を失いました。時に何か始めようかと奮起しても、どうせ私もああなるんだ、それももうすぐ、と思うとやる気はサーッと引いていき、何をする気もなくなってしまう。

数カ月の内に痩せこけて、誰だかわからないような容貌になっていく人、わけのわからないことを言い出す人、そういう人たちを見るたびに食卓の一同も目を見張ります。
「あんなに急に変わるものかねぇ」
そして、口をそろえて言うのです。 「ああ、早く死にたいねぇ」

でも、ご心配なくね。その言葉のすぐ後に、どこそこのホウレンソウは放射能があるから買わない方がいいよ。うん、うん、気をつけようね。
みんな本当は生きたいのです。死ぬまで頭もしっかり、体もしっかりの状態で死にたいのです。



階段
人生の階段は上が見えないほど長い
まだ上に続きがあるんでしょうか
私としては、ない方がいいのですが

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borobear

Author:borobear
父が婚約者の母に贈ったイギリス製の熊。昔はピカピカに可愛く輝いていたのに、今や薄汚れてボロ熊に。私も老人ホームで薄汚れ。同じボロなら居直って、なりふり構わず踊らにゃそんそんという具合に、仲良く生きています。

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