スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ハエ vs ハエ取り紙

でも、時すでに男のボートは、脈ありと見て爆走を始めていました。時々私が個室や共用部分のリフォームから出る化学物質が、将来的に大分多くなりそうだとためらうと、彼はすぐさま説得を始めます。まるで、お父さんが小さい子共に噛んで含めて宥めるように、猫撫で声で、ネチネチ、ネチネチと。出発点から始まり一周して出発点へ。それを何度も繰り返すわけです。まるで壊れたレコードみたいだ。
それでも私は納得していない様子。
「ねぇ、ボロベアさん、そんな先のことまで考えたってしょうがないじゃないですか」
「バカ言っちゃ困ります。そうなったら苦しむのは私なんです。あなたは痛くもかゆくもないでしょうけど。本人が心配するのは当たり前じゃないですか!」
すると彼は、またさっきの説得を1周でも2周でも始めます。元来せっかちな私にとって、こういう説得術は拷問に等しいのです。警察の取り調べ室で疲れ果て、「私がやりました」と言ってしまう犯人のように、「もういいや」という気になっちゃうんです。何でもいいからボートから降ろしてくれ!

「私ねぇ、何だかハエ取り紙にくっついたような気がするよ」 友達にボヤキました。
「ハエ取り紙」知ってますか。昔、魚屋さんなどが商品にハエがたからないように、店先に何本もぶら下げていた、ハエを捕まえる帯のような、今でいえばゴキブリホイホイを紐にしたようなものです。
「やめれば? 後で後悔しても遅いんだから」
「でも、我が家の大規模補修が近いからさ。もう後に引けないんだよね。それにセールスマンが嫌だからって、やめるのも変じゃない。大体、身元引受人もなし、死んだらお骨にして、お宅のお墓に埋めてくださいなんてこと、聞き入れてくれるとこ滅多にないのよ」

「こちらの大規模補修が近いようだから、それが済むまで入れません」「はい」
「部屋のリフォームも最小限にして、入居はその後、半年待って下さい」「はい」
「もし、私がホーム内のリフォームなどで気分が悪くなって部屋にいられなくなったら、ロビーとか、どこか空いている所で休んでもいいですよね?」「はい」
その他、たくさんの「はい」をいただいて、私は入居を決めました。彼と出会って2年後のことでした。
今まで続いた緊張が解け、ほっと気が緩みました。いい所があってよかった。

ハエ取り紙の勝ち!


  ハエ取り紙は、最終段階で、ハエにとって大好物に変身成功したようだ
ハエ








スポンサーサイト

本当に、ここでいいのかしら

玄関を半分ぐらい開けて顔を合わせたのは、背のひょろっと高い、眼鏡をかけた40代の男でした。「わたくし、××の者ですが」。この暑さにもめげず、真っ黒い背広を着、やたらにニコニコしています。典型的なセールスマン。私はこういう厚かましい突撃隊は好きじゃありません。「資料を送って下さいと言っただけなんですけどね。まだどことも決めたわけじゃないんです。勿論、お宅も参考のため資料が見たかっただけです」「あ、でも、すぐお近くなので持って伺った方が早いかと……」  近いと言ったって、お宅、東京の上にある県の人でしょ。 遠いでしょ。 男は、半開きのドアの向こうにある私の部屋を覗き込こんでいる様子。私は外へ出て、ぴしゃりとドアを閉めました。男は、今度はマンション全体を見回しています。ハハア、これは私の面接を兼ねて、財産の下見に来たな。いよいよ不愉快だ。「資料はいただきます。どうもわざわざありがとうございました」 そう言って、風のように素早くドアの中に入ってしまいました。こんなのがいるホームなどロクな所ではあるまい。まあ資料だけ読んでみよう。 そのときすでに、私は男の漕ぐボートに片足を突っ込んでいたのです。

資料を読んだところ、悪くはありませんでした。東京でないとは言え、入居一時金、償却期間など、どのホームより条件は良いと言えました。早速掛かってきた男の電話に誘われて、とにかく見学に行ってみました。部屋が空くたびに何度も何度も。良くもないけれど悪くもないフツー。他のホームのようにギンギラのロビーなどがないのが気に入りました。 屋根のコンクリートの隙間からペンペン草が長く延びていたり、大規模補修が15年経っているのにまだやっていないところあたりは、メンテナンスに問題がありそうで気に入らない。でも、何よりも気に入らなかったのが、例のセールスマンなのでした。



bo-to.jpg  
花の下、隠れて何をする人ぞ
  

老人ホームに入ったわけ

「あんたは老人ホームに向かないよ」「浮くよ」「すぐ逃げだすよ」
私が老人ホームを探し始めた時、友人たちはこぞって言ったものです。そうでしょう。私自身がだれよりもそう思っていました。バリバリの一匹狼で、人と群れるのが大嫌い、自由が何より好き。

でも、人はいつか死ななければなりません。いくら自由人でも、その体を消す自由までは持ち合わせていません。私には身内がいませんでした。なるべく誰にも迷惑にならず消える道、それを「看取り」付きの有料老人ホームに託そうと思ったのです。

ホーム探しは難航しました。保証人なしが命取りでした。その上、70歳になろうとする直前、化学物質過敏症という厄介な荷物を背負いこみました。シックハウス症の重いヤツなのですが、その症状の説明をすると果てしなく長くなり、寿命が尽きて死んじゃうかもしれないと思われるので、今は
ここを開いて、ざっと見ておいてくださればと思います。

もたもたしているうちに、自分自身のマンションの大規模補修が2年後に迫ってきました。ペンキや接着剤に囲まれては半年も生きていけません。焦りました。老人ホーム特集の雑誌を買って、ここぞと思うところに資料請求の電話をかけまくりました。その日のうちに、もう資料が一つ届きました。ウソ! 早すぎる。それは郵便やではなく、セールスマンが持ってきたのです。 

あら、お昼の時間だわ。 行かなくちゃ。


画面にあまりに色気がないので(ほら、歳が歳だから)、ときどき私が撮った好きな写真を見ていただこうと思います。
上野公園の桜 
上野公園の桜
      

プロフィール

borobear

Author:borobear
父が婚約者の母に贈ったイギリス製の熊。昔はピカピカに可愛く輝いていたのに、今や薄汚れてボロ熊に。私も老人ホームで薄汚れ。同じボロなら居直って、なりふり構わず踊らにゃそんそんという具合に、仲良く生きています。

最新記事
カテゴリ
お知らせ
訳あって、今までコメントの受付をお断りしてきましたが、今後は「非公開コメント」に限り拝見させていただくことにしました。コメントの入力欄の「管理者だけに表示を許可する」にチェックを入れてください。よろしくお願いいたします。
検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。